1.はじめに

こちらの記事は、中小企業庁から情報提供された令和6年12月末までの中小企業新事業進出補助金に関する内容を基にしています。詳細な新規事業の要件や申請方法については、今後の情報更新を追いかける必要がありますので、新しい情報提供があった場合は、別記事にて補足や修正をしたいと思います。また時間が無い方は2. 中小企業新事業進出補助金の概要を読むと本補助金の主旨等を把握していただくことが可能です。それ以外の詳細な解説につきましては、3. 中小企業新事業進出補助金の目的やリスク以降を読み進めていただくようにお願いします。
現時点(令和7年1月8日)での詳細ガイドとして、ひとつの記事にまとめる予定でしたが、文字数が多くなりましたのでPart1とPart2の2回に分けてお届けします。

令和7年(2025年)4月公募開始!中小企業新事業進出補助金の概要

2.中小企業新事業進出補助金の概要

中小企業新事業進出補助金は、令和6年度補正予算に基づいて新たに設けられた制度であり、特に中小企業が新たな市場や高付加価値事業に進出する際の経費を支援することを目的としています。国としては、こちらの補助金によって企業の成長を促進し、経済全体の活性化に寄与することを目指しています。
こちらの補助金は、新製品または新サービスを新規顧客に提供する新たな挑戦を行う中小企業等を対象としています。例えば、令和6年12月に掲載されていたリーフレットでは機械加工業がノウハウを活かして半導体製造装置部品の製造に進出するケースや、医療機器製造の技術を活かしてウイスキー製造業に進出する活用イメージが挙げられます。このように中小企業等は新事業に挑戦することで、新たな収益源を確保し、持続的な成長を図ることが期待されています。
また国は中小企業等の成長と拡大を支援し、生産性向上や賃上げが促進されることを期待しています。特に、賃金引上げ特例が設けられており、事業場内最低賃金や給与支給総額を引き上げることで、補助金の上限額が増加する仕組みになっています。これにより、中小企業等は従業員の待遇改善を図りつつ、事業の拡大を目指すことができます。人材確保が経営課題になっている中小企業等は、こちらの補助金で規模拡大を図りながら給与水準をあげて人材獲得を強化することが可能になります。
実施スケジュールは、令和7年(2025年)の4月から公募開始される予定で、令和8年度末までに4回の公募、採択件数は6,000件程度が想定されています。事業再構築補助金の基金から1,500億円の予算が引き当てられておりますので、1件あたりの補助額は2,500万円の見込みです。これにより、多くの中小企業等が新たな事業に挑戦する機会を得ることができ、経済の活性化に寄与することが期待されています。
最新情報の収集リソースは、中小企業庁の令和6年度補正予算・令和7年度当初予算関連支援策チラシ一覧をご覧いただくのがお奨めです。令和6年度補正予算・令和7年度当初予算関連では、中小企業や小規模事業者に関連する支援対策予算のポイントなどが確認できます。支援策チラシ一覧では、各種補助金のリーフレットが掲載されており、手早く概要を確認することができます。

3.中小企業新事業進出補助金の目的やリスク

中小企業新事業進出補助金は、中小企業等が新たな市場や高付加価値事業に進出するための重要な支援制度です。新規事業に必要な設備投資を行う際の経済的負担を軽減し、成長を促進することを目的としています。特に、既存の事業モデルから脱却し、新たな挑戦を行う中小企業等にとって資金面でのサポートは非常に心強いものになります。
主な目的は、中小企業等の持続的な成長を促進し、賃上げを実現することです。新たな市場に進出することで、収益の増加が期待され、その結果として従業員の賃金も向上することが見込まれます。生産性の向上は、中小企業等の競争力を高めるだけでなく、地域経済全体の活性化にも寄与します。
ただ一方では、既存の事業とは異なる分野への進出はリスクを伴います。現時点では新事業の詳細な要件や定義が不明であるものの、概要資料の基本要件には「事業者にとって新製品(又は新サービス)を新規顧客に提供する新たな挑戦」と記載があります。仮に既存顧客への提供を認めていない場合、既存顧客とは異なる新たな顧客に新製品や新サービスの価値を伝え気に入ってもらい購入していただく必要があります。新事業に取り組む際の最大の課題は、見込み客(リード)の獲得・育成・顧客化です。リスクを最小限に抑えるため、新事業の設計段階から必ずマーケティング戦略を組み立てましょう。
また国としては、賃上げを通じて従業員の生活向上にも寄与することを目指しています。企業が新たな市場に進出し、収益を上げることで、従業員に対する賃金の引き上げが可能となります。これにより、従業員のモチベーションが向上し、中小企業等の生産性も高まることが期待されます。ただこちらに関しても、賃上げに伴う固定費負担の増加がリスクになることも考えておかなければいけません。今後3年から5年の計画書を策定する中で、本補助金の要件を満たす給与支給総額に引き上げることによる経営への影響を十分に考慮するようにしてください。

4.中小企業新事業進出補助金の対象となる中小企業等

「中小企業者・小規模企業者(以下、中小企業等)」の定義は、中小企業基本法で定められた概ねの範囲に沿って、独立行政法人中小企業基盤整備機構法で定められています。まずは、中小機構のサイトから中小機構法上の中小企業・小規模企業者の定義を確認してください。
中小企業新事業進出補助金は、⼈⼿不⾜や賃上げといった昨今の経済社会の変化の中で、新市場や新製品・サービスに挑戦する成長意欲の高い中小企業等を対象としています。
中小企業等が既存の事業から新たな市場へ進出し、高付加価値の事業を展開するための経費を支援することを目的としています。これにより、企業は競争力を高め、持続的な成長を実現することが期待されています。 但し、すでに事業再構築補助金を活用して進出した新規事業に関する設備投資については、本補助金で認められないと思われます。
支援内容は、企業の従業員数に応じて異なります。具体的には、従業員数が20人以下には最大2,500万円、21~50人には最大4,000万円、51~100人の企業には最大5,500万円、101人以上の企業には最大7,000万円が支給されます。賃金引上げ特例を適用した場合、上限額がさらに増額されますが、前述した通りリスクを伴いますので、特例を適用するかどうかの判断は慎重に行ってください。
なお、今回こちらの補助金では補助下限が750万円に設定されています。つまり補助率が1/2のため投資総額の下限が1,500万円になります。補助金は後払いで全ての報告を終えた後に振り込まれる仕組みになっており、補助金を活用する中小企業等は、自己資金や金融機関から融資を受ける等で先払いをする必要があります。したがって、先払いの余力がない、あるいは調達する見込みが立たない中小企業等は申請するのが難しいということになります。資金調達や資金繰りの面においても十分に考慮したうえで取り組みましょう。

5.中小企業新事業進出補助金5つの基本要件

中小企業新事業進出補助金を活用するためには、基本要件を満たす必要があります。そして基本要件は、以下の通り申請前と実施後に分類することができます。

① 申請前2つの基本要件

a. 新規事業への挑戦と事業計画書の策定
経済社会の激しい変化の中で、既存事業のみならず新たな事業の柱になる新事業への挑戦を検討する必要があります。これから新市場や高付加価値事業への進出に挑戦する中小企業等を後押しすると国は示しています。新規事業に進出する際の取組内容や戦略について、収益性や実現性等の観点から事業計画書に落とし込むことがひとつ目の要件になります。
b. 次世代育成⽀援対策推進法に基づく⼀般事業主⾏動計画を公表等
事業再構築補助金では、ライフ・ワーク・バランス等の取組に対する加点項目でしたが、本補助金では基本要件になっています。事業再構築補助金の公募要領では以下の文言が記載されています。
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次世代育成支援対策推進法(次世代法)に基づく認定(くるみん、トライくるみん又はプラチナくるみんのいずれかの認定)を受けた者又は従業員数 100 人以下であって、「一般事業主行動計画公表サイト(両立支援のひろば)」に次世代法に基づく一般事業主行動計画を公表している者
※厚生労働省「一般事業主行動計画公表サイト(両立支援のひろば)
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一般事業主行動計画は、次世代育成支援対策推進法(以下「次世代法」)に基づき、企業が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組むに当たって、計画期間、目標、目標達成のための対策及びその実施時期を定めるものです。従業員101人以上の企業は義務付けられていますが、100人以下の企業は努力義務となっているため策定及び届出は行っていない企業も多いと思います。
届出先は、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)で、行動計画そのものを添付する必要はなく、あくまでも「一般事業主行動計画策定・変更届」(様式第一号)のみの提出です。様式第一号はフォーマットが用意されておりますが、届出の時期(令和7年3月31日までと4月1日以降)によって異なりますので注意が必要です。計画策定の流れや届出方法、フォーマット等の詳細は、厚生労働省の一般事業主行動計画の策定・届出等についてをご確認ください。
郵送、持参、電子申請いずれかの方法で届け出ることが可能になっていますので、本補助金を検討している場合は、速やかに策定及び届出をしておくことをお奨めします。なぜなら申請を検討している中小企業等が公募要領の発表と同時に基本要件を満たすために、こぞって届け出ることが想定されるからです。混雑すると何かしらの不具合が生じる可能性がありますので、本補助金の活用を決断したら最初に取り組むようにしましょう。

② 実施後3つの基本要件

c. 付加価値額の年平均成長率+4.0%以上増加
申請する中小企業等は事業実施後に付加価値額の年平均成長率が4.0%以上であることが求められます。事業再構築補助金の成長分野進出枠でも年平均の成長率4.0%以上の増加が要件でしたので同じ水準を求められています。計画年数で示すと、例えば3年計画であれば3年後に12.0%、4年計画であれば4年後に16.0%、5年計画であれば5年後に20.0%を達成する計画を策定する必要があります。これは、中小企業等が新たな事業を通じて生産性を向上させ、持続的な成長を実現するための重要な指標です。事業計画には、具体的な成長戦略や市場分析を盛り込み、実現可能性を示すようにしてください。
※付加価値額とは
・営業利益、人件費、減価償却費を足した数値
・成果目標の比較基準は、補助事業終了月の属する決算年度の付加価値額
d. 1人あたり給与支給額の年平均成長率が事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上
又は、給与⽀給総額の年平均成⻑率+2.5%以上増加

事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間の年平均成長率は、今回からの比較基準になります。給与支給総額の年平均成長率+2.5%は、+2.0%以上を求めていた事業再構築補助金と比較すると+0.5%厳しくなっています。計画年数で示すと、例えば3年計画であれば3年後に7.5%、4年計画であれば4年後に10.0%、5年計画であれば5年後に12.5%を達成する計画を策定する必要があります。但し今回は事業実施都道府県における直近5年間の最低賃金の成長率と自社の給与支給総額の年平均成長率を比較したうえで判断する必要があります。
※給与支給額とは
一般的に人件費では給与や賞与、手当だけでなく、福利厚生費や退職金、外注費などがすべて含まれます。 一方、給与支給総額には福利厚生費や退職金、外注費などは含まれないという違いがあります。
但し、事業再構築補助金の公募要領には、次の内容が記載されています。
法人の場合は、法人事業概況説明書の提出を求め、人件費の欄に記載された金額で判断します。個人の場合は、所得税青色申告決算書(白色申告の場合、収支内訳書)の提出を求め、給与賃金、専従者給与、青色申告特別控除前又は白色申告事業専従者控除前の所得金額の欄に記載された金額の合計で判断します。
e. 事業所内最低賃⾦が地域別最低賃⾦+30円以上⽔準
こちらの要件は、事業再構築補助金では基本要件に含まれておらず大幅な賃上げを実施する事業者に対する加点要件(+30円と+50円)や短期に大規模な賃上げを行う場合(+45円)に求められておりました。したがって、基本要件としては給与支給総額の年平均成⻑率と同様に求められる水準が高くなったと言えます。

今回はここまで。次回は、対象経費や注意点等について詳しく解説します。

ビズシア株式会社では、現在オンライン無料相談を実施中です。すでに3社からの相談に対応させていただき、今後も増えていく予定です。申込順に日程を調整させていただいておりますので、公募が始まる4月頃には対応できなくなる可能性がございます。中小企業新事業進出補助金のみならず何かしらの補助金の活用を検討している企業様は、なるべくお早めに無料相談にお申込みいただくようお奨めたします。
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6.中小企業新事業進出補助金の補助上限額や対象経費
①補助上限額
②対象経費
7.中小企業新事業進出補助金の注意点
①必要書類の多さ
②交付決定までの投資不可
③後払い方式
④スケジュールの長期化
8.今後の展望